「団信が付くので、生命保険の代わりになります」
投資用マンションの営業で、節税と並んでよく使われる説明です。
この説明は正しいのでしょうか。結論から言えば、住宅ローンの団信と投資用ローンの団信では、遺族が受け取るものの性質がまったく違います。そして投資用のほうが、保障としての価値は大きくなります。
ただし、それは物件がまともであればという条件付きです。本記事では団信の正体と、その価値と限界を整理します。
助手不動産投資が生命保険代わりになるというのはよく聞きます!



半分正しく、半分間違っているな。少なくとも生命保険の代わり二不動産投資というのは間違っているのじゃ。
- 団信の正体は逓減定期保険。保障額はローン残債に連動して減っていく
- 住宅ローンの団信は「住居費がゼロになる」だけ。投資用の団信は「無借金の収益物件が残る」
- 借入2,800万円・家賃9.5万円の物件なら、遺族は月約7万円の手取り収入か、売却による現金を得られる
- コストは一般に金利0.2〜0.3%相当とされ、借入2,800万円なら月2,800〜4,300円程度
- ただし生命保険料控除は使えず、保険金の受取人も指定できない
- そして物件が悪ければ、遺族に残るのは売れない物件と維持費の負担
本記事はKASUUNO編集部が執筆しています。
1. 団信の正体は「逓減定期保険」
団体信用生命保険は、ローン返済中に契約者が死亡または高度障害状態になった場合、残りのローンが完済される仕組みです。
ここで重要なのは、保障額がローン残債と連動しているという点です。
| 経過年数 | ローン残債=保障額 |
|---|---|
| 契約時 | 2,800万円 |
| 10年後 | 約2,188万円 |
| 20年後 | 約1,439万円 |
| 30年後 | 約610万円 |
※借入2,800万円・35年・金利2.0%の場合
返済が進むほど、保障額は減っていきます。この形の保険を逓減定期保険と呼びます。
生命保険の世界では、似た商品として収入保障保険があります。保険期間の経過とともに受取総額が減っていく仕組みで、保障額が一定の平準定期保険と比べて保険料が安くなります。団信の代わりになる生命保険として、最も構造が近い商品とされています。
つまり団信は、「返済が進むほど保障が薄くなる保険」です。ここは正しく理解しておく必要があります。
2. 投資用の団信が、住宅ローンと決定的に違う点
ここからが本題です。
団信の説明は住宅ローンを前提に語られることが多いのですが、投資用ローンの団信は、遺族が受け取るものがまったく違います。
住宅ローンの場合
契約者が死亡すると、ローンが消えて自宅が残ります。遺族は住居費の負担なく住み続けられます。
家賃がゼロになるという効果はあるものの、立地や物件によっては売却して現金化することは難しくなります。また、人に貸すというのも現実的ではないため、家は残るものの、資産の使い道の自由度はなく、あくまで住居が残るという効果のみです。
投資用ローンの場合
契約者が死亡すると、ローンが消えて収益物件が残ります。
遺族が手にするのは、無借金の状態で家賃収入を生み続ける資産です。そのまま保有して家賃を受け取ることも、売却して現金化することもできます。
| 住宅ローンの団信 | 投資用ローンの団信 | |
|---|---|---|
| 遺族が得るもの | 住居費がゼロになる | 家賃収入を生む資産 |
| 現金化 | 売れば住む場所を失う | 売却しても生活に影響しない |
| 維持費 | 負担が残る | 家賃収入から賄える |
残された遺族に子どもがいた場合、その養育費や家賃の補助に使う、売却して別の使い道を考えるなど、その自由度が高い点が、投資用ローンの団信の魅力です。
3. 数字で見る:遺族が受け取るもの
前提:借入2,800万円/家賃9.5万円/管理費等を引いたNOI約84万円
契約者が死亡した時点で、遺族が選べる選択肢は2つです。
選択肢A:保有を続ける
ローンがないため、家賃収入からランニングコストを引いた年間約84万円、月約7万円がそのまま手取りになります。しかもこの収入に期限はありません。
収入保障保険で同等の保障を得ようとすれば、月7万円の年金額を設定することになります。加えて収入保障保険には保険期間の満了がありますが、物件からの収入は建物が存続する限り続きます。
選択肢B:売却して現金化する
物件を売却すれば、残債ゼロなので売却価格がそのまま手取りになります(諸費用と税金を除く)。
まとまった資金が必要な場合、この選択肢が使えるのは大きな利点です。自宅と違い、売却しても生活基盤を失いません。
4. コストはいくらか
では、この保障にいくら払っているのか。
投資用ローンの多くは団信への加入が必須で、保険料は金利に含まれる形になっています。別途保険料を支払う商品ではないため、正確な保険料を算出することはできません。
一般に、団信のコストは金利0.2〜0.3%相当とされています。この前提で計算すると、
借入2,800万円/35年/元利均等返済
| 金利 | 毎月返済額 | 差額 |
|---|---|---|
| 2.0%(団信込み) | 92,756円 | ー |
| 1.8%(団信0.2%と仮定) | 89,907円 | 2,849円 |
| 1.7%(団信0.3%と仮定) | 88,499円 | 4,257円 |
月2,800〜4,300円程度というのが、おおよその実質コストです。
同等の保障を民間の収入保障保険で用意した場合の保険料は、年齢・性別・喫煙状況・健康状態によって大きく変わります。ご自身の条件で見積もりを取り、比較してみることをおすすめします。
なお、がん団信や三大疾病保障付き団信などを選ぶ場合は、さらに金利が上乗せされるのが一般的です。
5. 団信のデメリット
保障としての価値は大きいものの、生命保険と比べた弱点もあります。
生命保険料控除が使えない
収入保障保険や定期保険の保険料は生命保険料控除の対象となり、2012年1月1日以降の契約であれば所得税で最大4万円、住民税で最大2万8,000円の控除を受けられます。
一方、団信の保険料は金利に含まれているため、生命保険料控除の対象になりません。同じ保障を買うなら、控除が使える分だけ民間の保険が有利になる面があります。
保険金の受取人を指定できない
団信の保険金は金融機関に支払われ、ローンの返済に充てられます。契約者や相続人が保険金を直接受け取ることはできません。
収入保障保険であれば、受取人を指定でき、受け取った資金の使い道も自由です。団信の場合、遺族が受け取るのは「物件」という形になるため、現金が必要な場面では売却という手続きを経る必要があります。
また物件は相続財産として遺産分割の対象になります。相続人が複数いる場合、分割をめぐる調整が必要になる可能性があります。
保障内容を変更できない
団信は契約時期、保障金額、保障期間、保障内容がローンに紐づいて決まっており、後から変更することができません。
民間の保険であれば、ライフステージの変化に応じて保障額を増減させたり、解約したりできます。この柔軟性は団信にはありません。
健康状態によっては加入できない
団信には告知義務があり、健康状態によっては加入できない場合があります。その場合、引受基準を緩和したワイド団信(金利上乗せあり)を検討することになります。
団信に加入できないと、そもそもローンが組めない金融機関も多いため、これは物件取得そのものに関わる論点です。
6. 最大の注意点:物件が悪ければ「負の遺産」になる
では、団信は生命保険の代わりとして機能するのでしょうか。
結論からいうと、それは物件によります。
団信によって遺族に残るのは「物件」です。そしてその物件の価値が、そのまま保障の価値になります。
物件が良ければ、遺族は家賃収入を得るか、売却してまとまった資金を得られます。
物件が悪ければ、遺族に残るのは次のようなものです。
- 空室が埋まらず、家賃収入が入らない物件
- 買い手がつかず、売るに売れない物件
- それでも毎月かかり続ける管理費・修繕積立金
- 毎年課される固定資産税・都市計画税
- サブリース契約が付いていれば、解約できないまま承継される契約
ローンが消えても、維持費は消えません。収入を生まない物件は、相続した瞬間から遺族の負担になります。
団信は「保険」ではなく「資産の承継」である以上、承継される資産の質がすべてです。
「団信があるから生命保険代わりになります」という説明を受けたら、確認すべきはこう言い換えられます。
「この物件は、遺された家族が受け取って喜ぶ資産ですか」
家賃が上がり続ける物件であれば、答えはイエスです。空室リスクが高く売却も難しい物件であれば、それは保険ではなく負債の承継になります。
7. 既存の生命保険を見直す余地
団信に加入したことで、既存の生命保険が過剰になっている可能性はあります。
たとえば住居費や生活費の一部を賄う目的で死亡保障を掛けていた場合、投資物件からの家賃収入が遺族に残るのであれば、その分の保障は重複します。
必要保障額の考え方は、遺された家族の支出から、公的保障や遺族の収入を差し引いた不足額です。ここに「団信によって残る物件からの収入」を加えれば、必要な保障額は下がります。
生命保険料を月1万円削減できれば、年間12万円です。団信のコストが月2,800〜4,300円程度であることを考えれば、見直しによる効果のほうが大きい場合もあります。
8. まとめ
団信の正体は逓減定期保険であり、保障額はローン残債に連動して減っていきます。ここは正しく理解しておく必要があります。
そして最も重要なのは、団信の価値は物件の価値そのものだという点です。
家賃が上がり続け、いつでも売却できる物件であれば、団信は強力な保障として機能します。逆に空室が埋まらず売却もできない物件であれば、遺族が相続するのは維持費の負担だけです。
「団信があるから安心」ではなく、「この物件なら遺しても安心」と言えるかどうか。判断の基準はそこにあります。
【出典】
- 国税庁「No.1140 生命保険料控除」
- 各金融機関の団体信用生命保険に関する商品概要
- 収入保障保険・逓減定期保険に関する各社商品説明資料
