投資用マンションの売買契約書には、物件価格の内訳として「土地いくら、建物いくら」という記載があります。
この数字を気にせず契約する人がほとんどですが、ここで建物価格をいくらにするかによって、あなたが将来受け取る減価償却費は大きく変わります。そして売主である業者には、その建物価格を小さくしたい明確な動機があります。
本記事では、按分をめぐる利益相反の構造と、契約前に確認すべきことを整理します。
本記事はKASUUNO編集部が執筆しています。
- 建物は減価償却できるが土地はできない。だから買主は建物価格を大きくしたい
- 一方、建物の売買には消費税がかかり、土地は非課税。だから売主(課税事業者)は土地価格を大きくしたい
- つまり同じ物件価格でも、按分をどこで切るかで両者の手取りが変わる
- 建物按分を極端に小さくする、まして土地100%で出してくる業者は、自社の消費税負担を消す代わりに買主の減価償却を奪っている
- 契約書に消費税額の記載があれば、建物価格は逆算で確認できる
1. なぜ按分が必要なのか
土地と建物は、税務上まったく別の扱いを受けます。
| 減価償却 | 消費税 | |
|---|---|---|
| 建物 | できる | 課税 |
| 土地 | できない | 非課税 |
土地は時間が経っても価値が減らないと考えられているため、減価償却の対象になりません。一方の建物は年数に応じて価値が目減りするため、その分を経費として計上できます。
そして消費税は逆です。土地の譲渡は非課税取引とされ、建物の譲渡は原則として課税対象になります。
この2つのねじれが、按分をめぐる利益相反を生みます。
2. 買主が建物価格を大きくしたい理由
減価償却費は、現金の支出を伴わない経費です。財布から一円も出ていかないのに、帳簿上は経費として計上できます。
そして建物価格が大きいほど、この経費は増えます。
物件価格2,800万円/RC造(法定耐用年数47年)の場合
| 建物按分 | 建物価格 | 年間の減価償却費 |
|---|---|---|
| 50% | 1,400万円 | 約30.8万円 |
| 30% | 840万円 | 約18.5万円 |
| 0%(土地100%) | 0円 | 0円 |
建物按分が50%から30%に下がるだけで、年間の減価償却費は12万円以上減ります。限界税率30%の方であれば、年間約3.7万円、20年で約74万円の差になります。
そして土地100%で計上された場合、減価償却費はゼロ。年間30.8万円の経費が丸ごと消えるため、限界税率30%で年間約9.2万円、20年で約184万円を失う計算です。
3. 売主が土地価格を大きくしたい理由
一方、売主側の事情はまったく逆です。
建物の譲渡には消費税がかかり、土地の譲渡は非課税です。売主が課税事業者である不動産業者の場合、建物価格が大きいほど納める消費税が増えます。
先ほどと同じ2,800万円の物件で計算すると、
| 建物按分 | 建物価格(税抜) | 売主が納める消費税 |
|---|---|---|
| 50% | 1,400万円 | 140万円 |
| 30% | 840万円 | 84万円 |
| 0%(土地100%) | 0円 | 0円 |
建物価格をゼロにすれば、売主の消費税負担もゼロになります。
構図を並べると
| 買主(投資家) | 売主(業者) | |
|---|---|---|
| 建物按分50% | 20年で約184万円の節税 | 消費税140万円を負担 |
| 建物按分0% | 節税効果ゼロ | 消費税ゼロ |
同じ2,800万円の取引でありながら、按分をどこで切るかで両者の手取りが正反対に動きます。これは値引き交渉と同じく、取り分の配分をめぐる交渉です。しかし多くの買主は、そこで交渉が行われていることすら知らないまま契約しています。
なお、売主が個人の場合は消費税が課税されないため、この利益相反は生じません。問題が起きやすいのは、売主が課税事業者である不動産業者の場合です。
カスーノ博士投資用ワンルームマンションを業者が提案してくる際は、必ずこの利益相反が起きているのじゃ。
4. 「土地100%」で出してくる会社をどう見るか
ここからが本題です。
建物按分をゼロにする、あるいは極端に小さくして契約書を作成する業者が存在します。この姿勢をどう評価すべきか。
そもそも税務上の問題がある
按分は自由に決められるものではありません。土地と建物の各譲渡対価の区分が合理的でない場合、譲渡時の時価の比で総額を按分することが必要とされています。
そして、土地の時価に比べて契約書上の土地の対価がかなり高く、建物分の対価が不当に低い場合には、建物の譲渡に係る消費税額が過少となり、税務上の問題が生じます。
実務上も、土地90%対建物10%といった極端に偏った按分は、買主に納得してもらえないか、税務署から指摘を受けるリスクがあるとされています。
築年数が経っていても、建物には必ず価値があります。まして賃料収入を生んでいる収益物件で、建物価格がゼロという主張には合理性がありません。
問題は「知らせずに決めている」こと
按分比率そのものより問題なのは、その決定が買主に説明されないまま行われている点です。
按分は本来、双方が合意すべき事項です。契約書に消費税額の記載があれば逆算で確定するため双方が同じ金額になりますが、記載がなければ売主と買主が別々の方法で按分してしまうこともあり得ます。食い違いは税務署への説明やトラブルの火種になるため、売買契約の段階で内訳を合意しておくのが理想とされています。
節税を売り文句にしながら、その節税の源泉である減価償却費を自社都合で削っている。もしそうした提案が行われているなら、それは説明義務の問題です。
買主が知っておくべきなのは、按分は交渉できる項目であるということです。そして業者がその説明を避けるなら、理由を尋ねる権利があります。
5. 契約書から建物価格を確認する方法
自分が買おうとしている物件の按分がどうなっているか、確認する方法は2つあります。
方法1:消費税額から逆算する
契約書に「土地・建物合計でいくら」としか書かれていない場合でも、消費税額の記載があれば建物価格を逆算できます。
建物価格(税抜)= 記載された消費税額 ÷ 0.1
建物価格(税込)= 記載された消費税額 × 11
土地価格 = 売買価格の総額 - 建物価格(税込)
土地の売買は非課税取引であるため、総額から建物の税込価格を引いた残りが土地価格になります。
たとえば消費税額が100万円と記載されていれば、建物価格は税抜1,000万円。2,800万円の物件なら、土地価格は1,700万円という計算です。
この記載を確認せずに契約すると、減価償却費が想定より小さいまま、何十年も確定申告を続けることになります。
方法2:固定資産税評価額で按分する
消費税額の記載もない場合は、固定資産税評価額の比率で按分するのが実務上の標準です。国税庁も合理的な方法として認めています。
建物取得価額 = 売買総額 × 建物の固定資産税評価額 ÷(土地+建物の固定資産税評価額)
たとえば売買総額1億円、固定資産税評価額が土地4,000万円・建物1,000万円であれば、建物取得価額は2,000万円、土地取得価額は8,000万円となります。
固定資産税評価証明書は、売主または仲介会社を通じて入手できます。契約書に内訳がない場合、この方法で計算した金額を事業計画の前提にすべきとされています。
6. 契約前に確認すべきこと
按分について、契約前に以下を確認してください。
売買契約書に土地・建物の内訳は記載されているか。記載がなければ、その理由を尋ねます。
消費税額の記載はあるか。あれば、そこから建物価格を逆算します。売主が課税事業者であれば、記載があるのが通常です。
その按分の根拠は何か。固定資産税評価額比なのか、鑑定評価なのか、それとも根拠のない数字なのか。「合理的な根拠を示してください」と求めるのは、買主の正当な権利です。
提示された節税シミュレーションの減価償却費と、契約書の建物価格は整合しているか。営業資料で大きな減価償却費を示しておきながら、契約書の建物価格がそれと合わないケースは十分にあり得ます。
固定資産税評価証明書を見せてもらえるか。これを渋る業者は、按分の妥当性に自信がない可能性があります。
7. おわりに
按分は、物件価格や金利のように目立つ条件ではありません。契約書の片隅にある数字です。
しかしその数字は、20年で百数十万円の差を生みます。そして決定権は、本来買主にもあります。
「節税になります」と説明されたなら、その節税の源泉である建物価格がいくらで契約されているのかを、必ず確認してください。説明できない業者と、進んで説明する業者。その差は、按分の数字より雄弁に会社の姿勢を示します。
【出典】
- 国税庁 タックスアンサー(減価償却・消費税の非課税範囲)
- 公益社団法人 全日本不動産協会「法人が土地と建物を一括取得した場合の取得価額の区分」
- 消費税法(土地の譲渡に係る非課税規定)
