サブリース(一括借上げ)の仕組みは、20年前から何ひとつ変わっていません。
変わったのは環境のほうです。金利上昇とインフレが同時に来たことで、これまで見えていなかった欠陥が一斉に表面化しています。
金利上昇で収支が悪化し、売却を検討した。そこで初めて「サブリースが付いていると売りにくい」と知る。外そうとしたら外せない。そして市場の家賃は上がっているのに、自分の受取額は変わらない。
本記事では、いま何が起きているのかを法的な根拠とともに整理し、すでに契約してしまった方とこれから検討する方の双方に向けて、それぞれの対応を示します。
本記事はKASUUNO編集部が執筆しています。
- サブリースの構造は昔から同じ。デフレ期は家賃が上がらなかったため、欠陥が見えなかっただけ
- 金利上昇で売却を検討した人が、サブリースが売却の足かせになるという事実に直面している
- オーナー側からの解約には借地借家法28条の正当事由が必要で、実務上は極めて困難
- インフレ期の新たな問題として、市場家賃が上がっても保証賃料が上がる保証がない
- しかも**転貸賃料を開示する義務はなく、賃貸条件の決定権は業者側にある。**いくらで貸されているか知る手段がない
- 最高裁は借地借家法32条1項を強行法規と判断しており、家賃保証特約があっても業者側から減額請求ができる
1. いま、何が起きているのか
2026年9月、日銀の政策金利は1.25%へ引き上げられました。変動金利で借りている方は返済額の増加に直面しています。
収支が悪化すれば、当然「売却」が選択肢に上がります。そして売却を検討して初めて、多くのオーナーが自分の物件の状態を知ることになります。
サブリース付き物件は、売りにくい。
理由は3つあります。
① 買い手が限られる サブリース契約は物件と一緒に承継されます。買主も同じ契約に縛られるため、敬遠されます。
② 利回りが低く見える 保証賃料は市場家賃より1〜2割低いのが通常です。買主は保証賃料をベースに利回りを計算するため、同じ物件でもサブリースが付いているだけで評価額が下がります。
③ 買主も解約できない 「買ってから外せばいい」と考えても、後述の通り解約は困難です。買主側もそれを知っていれば、価格交渉の材料にします。
そして外そうとすると、次の壁にぶつかります。
2. なぜ解約できないのか
ここが最も誤解されている部分です。
オーナーは「貸主」なので、法律上不利な立場に置かれる
サブリースは、オーナーがサブリース業者に物件を貸し、業者が入居者に転貸する二重構造です。つまりオーナーが貸主、サブリース業者が借主という関係になります。
日本の借地借家法は借主を手厚く保護します。そしてこの保護は、相手が大手不動産会社であっても等しく適用されます。
マスターリース契約が普通借家型であれば、オーナーからの更新拒絶や解約申入れには、借地借家法28条の正当事由が必要になります。
国土交通省も、サブリース業者の禁止行為として、借地借家法の規定によりオーナーからの解約には正当事由が必要であることをあえて伝えず、メリットのみを伝える勧誘行為を挙げています。つまり行政も、これが説明されるべき重要事項だと認識しています。
正当事由とは何か
正当事由は、貸主側の使用の必要性、契約の経緯、建物の利用状況、立退料の提供などを総合的に考慮して判断されます。
「収支が悪化したから」「市場家賃で貸したいから」といった経済的な理由だけでは、正当事由として認められません。
裁判例を見ても、平成24年1月20日の東京地裁判決では、マスターリース契約の更新拒絶の有効性が争われ、賃貸人(オーナー)の正当事由を否定する判断が示されています。マスターリース契約の更新拒絶における正当事由の判断基準はまだ十分に固まっていない状況ですが、多くの地裁判決で正当事由制度が適用される旨が判示されています。
「購入後に解約すれば大丈夫ですよ」という営業説明は、この構造を伏せたものです。
3. インフレ期に顕在化した、2つ目の問題
売却の足かせに加えて、いま新たに問題になっているのがこちらです。
市場家賃は上がっているのに、受取額は変わらない
東京23区のシングルタイプの成約賃料は、2026年に前年同期比8.1%上昇しました。募集家賃ベースでは前年比13%です。
ところがサブリースの保証賃料が、これに連動して上がる保証はどこにもありません。
契約書に賃料改定の条項はあっても、多くは「〇年ごとに協議のうえ改定する」という書き方で、増額を約束するものではありません。そして協議が整わなければ、据え置かれます。
デフレ期であれば、市場家賃も上がらないので機会損失は発生しませんでした。いま初めて、この差が実額として現れています。
家賃9万円の物件で市場が8%上がれば月7,200円。保証賃料が据え置かれれば、それがそのまま取り逃がしになります。
そもそも、いくらで貸されているか知る手段がない
サブリース業者と入居者の間で締結される賃貸借契約において、賃貸条件をどうするかについてはサブリース業者が権限を有している場合が多く、オーナーは、業者が基本的な合意内容に反する条件で契約したような例外的な場合でない限り、賃貸条件の変更等を要求することはできないとされています。
そして転貸賃料をオーナーに開示する義務は、法令上定められていません。
つまり、
業者が12万円で貸していても、オーナーが受け取るのは10万円。 そしてオーナーには、それが12万円なのか10.5万円なのかを確認する手段がない。
情報がなければ、交渉の土俵にすら上がれません。「市場は上がっているのだから保証賃料も上げてほしい」と言おうにも、自分の物件がいくらで貸されているかという最も重要な事実を握られている状態です。
減額請求は、業者側からできる
さらに法律構造として重要な点があります。
最高裁平成15年10月21日判決(民集57巻9号1213頁)は、サブリース契約にも借地借家法32条1項が適用されると判示しました。その後の一連の最高裁判決(平成15年10月23日、平成16年11月8日など)でも、同条1項は強行法規であるとされ、減額が認容されています。
これが意味するのは、
- 賃料自動増額特約があっても、業者側から減額請求ができる
- 「30年家賃保証」といった契約条項も、この規定を排除できない
増額は協議次第、減額は法律で保障されている、ということですね。
4. すでに契約している方へ
ここからは、すでにサブリース契約を結んでいる方向けの内容です。
解約は困難ですが、打てる手がないわけではありません。
まず契約書を確認する
中途解約条項の有無を確認してください。
契約によっては、一定の予告期間と違約金(賃料の6か月分など)を条件に、オーナー側からの解約を認めている場合があります。
違約金が高額に見えても、市場家賃との差額が年間10万円を超えるなら、数年で回収できるケースもあります。
合意解約を交渉する
正当事由が不要になるのは、業者が合意した場合です。実務上は、以下のような場面で合意に至ることがあります。
- 物件を売却し、買主が別の管理形態を希望している
- 業者側の管理コストに見合わない物件になっている
- 業者が事業方針を変更している
契約時の説明に問題がなかったか確認する
2020年12月のサブリース新法施行以降に契約した場合、業者には契約前の重要事項説明義務があります。
国土交通省は、将来の家賃減額リスク、契約期間中でも業者から解除される可能性、オーナーからの解約には正当事由が必要であること、修繕費用の負担などをあえて伝えない勧誘を、禁止行為として明示しています。
また広告についても、オーナー側から解約する場合は正当事由が必要であることを広告の時点で表示するよう求めています。
これらの説明を受けていない場合、法令違反の可能性があります。
サブリースが付いたまま売却する
解約できない場合の現実的な選択肢です。価格は下がりますが、金利上昇局面で赤字が拡大し続けるより、早期に損失を確定させたほうが合理的なケースもあります。
5. これから検討する方へ
サブリース付き物件は、まず検討から外すべきでしょう。
そもそもサブリースがないと回らないような賃貸需要が弱いエリアの物件は、人気物件とは言えません。それでも業者がサブリースがないと売れない、提携ローンが下りないなどといってくるのであれば、尚更地雷物件であるリスクが高まります。
カスーノ博士賃料を保証しないとローンが出せないということは、その物件は危ないといっているようなものじゃな。
理由をあらためて整理します。
| サブリースの構造 | |
|---|---|
| 受取賃料 | 市場より1〜2割低い |
| 家賃上昇時 | 恩恵を受けられない可能性が高い |
| 家賃下落時 | 業者から減額請求される(判例で確立) |
| 転貸賃料 | 知る手段がない |
| 解約 | 正当事由が必要で、実務上困難 |
| 売却 | 買い手が限られ、価格も下がる |
上がるときは据え置き、下がるときは減額。この非対称性を受け入れる対価が「空室リスクの回避」ですが、都心の単身向けで入退去の回転が速い物件であれば、そもそも空室リスクは限定的です。
そして何より、インフレ局面では家賃上昇の恩恵こそが収益の源泉になります。それを放棄する契約は、いまの環境で最も合理性を欠く選択と言えます。
営業説明で確認すべきこと
- 解約条件は何か(中途解約条項の有無、違約金の額)
- 保証賃料の改定条件は何か。増額される条件は明記されているか
- 転貸賃料をオーナーに開示する取り決めはあるか
- 免責期間(賃料が支払われない期間)はあるか
- 修繕費用と原状回復費用の負担はどちらか
- 業者側から契約解除される条件は何か
サブリース契約は空室リスクに対する保険です。
しかし、空室リスクは本来、投資家が物件選定をする段階でヘッジすべきものですよ。
6. おわりに
サブリースは、悪質だから問題になっているわけではありません。借主保護という法律の構造と、情報の非対称性が組み合わさった結果として、オーナーが不利な立場に固定される仕組みになっています。
そしてデフレ期には、その不利益が見えませんでした。家賃が上がらなければ機会損失は生まれず、売却を考える人も少なかったからです。
いま問題が噴出しているのは、環境が変わったからです。そして環境はこの先も、家賃が動く方向へ進んでいきます。
契約前であれば、避けることができます。契約後であれば、まず契約書の中途解約条項を確認するところから始めてください。
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【出典】
- 最高裁判所 平成15年10月21日第三小法廷判決(民集57巻9号1213頁)ほか一連の最高裁判決
- 東京地方裁判所 平成24年1月20日判決
- 借地借家法 第28条・第32条
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(サブリース新法)第28条〜第30条
- 国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」
