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なぜ営業は「節税になります」と言うのか|年収別に計算して分かった、その言葉が向けられている相手

投資用ワンルームマンションの営業で、必ずと言っていいほど登場するのが「節税になります」という説明です。

不動産所得の赤字を給与所得と損益通算できるのは事実で、所得税と住民税は実際に減ります。嘘ではありません。

ただし、いくら減るのかを計算してみると、多くの人が想像している金額とは桁が違います。そして金額を計算すると、なぜこの言葉が営業の場面でこれほど多用されるのか、その理由も見えてきます。

本記事では年収別に節税額を実際に計算し、そのうえで「節税」という言葉が誰に向けて使われているのかを考えます。

先に結論を書くと、

  1. 節税の本質は減価償却にある。現金支出を伴わずに税金が減る点に価値がある
  2. しかしRC造の築浅ワンルームは、その減価償却が最も小さい構造をしている
  3. 効果が出るのは高い限界税率を持つ層に限られ、節税訴求は高年収層を選別するフィルターとして機能する

不動産投資そのものは、インフレ期において有効な選択肢です。ただし選ぶ基準を間違えると成立しません。節税を基準に選ぶことが、なぜ危ういのかを整理します。

本記事はKASUUNO編集部が執筆しています。

目次

1. 節税の仕組み:損益通算

まず仕組みを確認します。

不動産所得が赤字になった場合、その赤字を給与所得から差し引くことができます。これを損益通算といいます。

課税所得 = 給与所得 - 不動産所得の赤字 - 各種控除
節税額   = 赤字額 × (所得税率 + 住民税率10%)

給与から源泉徴収されていた税金が、確定申告によって還付される。これが「節税」と呼ばれているものの正体です。

本質は減価償却

ここで重要なのは、赤字の中身です。

経費には2種類あります。管理費や修繕積立金のように、実際に現金が出ていくもの。そしてもうひとつが減価償却費です。

減価償却費は、建物の価値の目減りを会計上の経費として計上するもので、現金の支出を伴いません。財布から一円も出ていかないのに、帳簿上は経費として扱われる。

現金の動き:家賃収入 - 実際の支出 = 手元に残る
税務の計算:家賃収入 - 実際の支出 - 減価償却費 = 不動産所得

つまり手元にはお金が残っているのに、税務上は赤字という状態を作れます。この赤字を給与所得から差し引けば、支出を増やさずに税金だけが減ります。

これが不動産投資の節税が魅力的だと言われる理由です。手元資金を失わずに節税できる、という点に本質があります。

では実際にいくら減るのか。ここから計算していきます。

2. 年収別の限界税率

節税額を左右するのが税率です。日本の所得税は累進課税なので、年収によって適用される税率が変わります。

給与収入のみ・独身・社会保険料控除と基礎控除のみを適用した場合の概算です。

年収課税所得(概算)所得税率住民税合計(限界税率)
600万円約287万円10%10%約20%
800万円約432万円20%10%約30%
1,000万円約628万円20%10%約30%
1,200万円約818万円23%10%約33%
1,500万円約1,108万円33%10%約43%

※2026年12月1日施行の令和8年度税制改正後の基礎控除62万円、給与所得控除を前提とした概算。扶養控除・生命保険料控除等は考慮していません。別途、所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかります。

年収600万円と1,500万円では、同じ赤字でも戻ってくる金額が2倍以上違います。これが最初の重要な事実です。


3. 赤字はどう作られるのか

次に、実際にいくらの赤字が出るのかを計算します。

前提条件

  • 物件価格2,800万円(うち建物1,400万円)/借入2,800万円・35年・金利2.0%
  • 家賃9.5万円(年間114万円)

初年度

項目金額
家賃収入+114.0万円
減価償却費(RC造47年)▲29.8万円
ローン支払利息▲55.5万円
管理費・修繕積立金▲14.4万円
管理委託料▲5.7万円
固定資産税・都市計画税▲6.0万円
その他経費(保険・通信等)▲3.0万円
不動産取得税・登録免許税・司法書士報酬等▲45.0万円
不動産所得▲45.6万円

2年目以降

初年度の諸費用がなくなるため、

項目金額
家賃収入+114.0万円
経費合計(諸費用を除く)▲114.4万円
不動産所得▲0.4万円

赤字はほぼ消えます。

初年度の節税は、節税とは言えない

ここで区別すべきことがあります。

初年度に大きな赤字が出るのは、不動産取得税や登録免許税を実際に支払っているからです。現金が45万円出ていき、その一部である約7万円が税金として戻ってくる。これは節税というより、支出に対する部分的な還付です。

構造としては、運用型の生命保険やNISAに近いと言えます。拠出したお金が資産として残り、そのうえで税制上の優遇を受けられる。資産形成をしながら税負担が軽くなるという点では確かに有利ですが、事業として見れば、初期投資を経費計上するのは当たり前のことです。

本質は2年目以降にある

不動産投資の節税が他の手段と決定的に違うのは、現金の支出がないのに節税できるという点でした。それが成立するのは2年目以降です。

諸費用の支払いが終わり、手元からの持ち出しがなくなった状態で、減価償却費だけが経費として残る。この状態で赤字が出てこそ、本当の意味での節税になります。

ところが上の計算の通り、RC造の区分ワンルームでは2年目以降の赤字がほぼ消えます。

理由は減価償却費の小ささです。RC造の法定耐用年数は47年と長く、建物価格1,400万円でも年間29.8万円しか計上できません。これに対して家賃収入は114万円あるため、赤字を作るには足りないのです。

減価償却費が大きく取れる物件、たとえば木造の築古であれば、この部分が効きます。法定耐用年数22年を超えた木造なら、4年で償却できるため年間の減価償却費は桁違いに大きくなります。

つまり、

節税の本質は2年目以降の減価償却にある。しかしRC造の築浅ワンルームは、その部分が最も出にくい構造をしている。

「不動産投資は節税になる」という一般論と、「築浅のワンルームが節税になる」は、まったく別の話です。


4. 見落とされがちな制限:土地の利子は通算できない

さらに制限があります。

租税特別措置法により、不動産所得の損失のうち、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は、損益通算の対象外とされています。

区分マンションの価格のうち土地持分が仮に40%だとすると、

支払利息55.5万円 × 40% = 22.2万円 → 損益通算できない

初年度の赤字45.6万円のうち、実際に使えるのは23.4万円だけという計算になります。

この規定を説明せずに「赤字がまるごと給与から引けます」と説明されるケースがありますが、正確ではありません。


5. 年収別の節税額を計算する

以上を踏まえて、実際の節税額を年収別に出します。

初年度(損益通算可能な赤字23.4万円)

年収限界税率節税額
600万円20%約4.7万円
800万円30%約7.0万円
1,000万円30%約7.0万円
1,200万円33%約7.7万円
1,500万円43%約10.1万円

2年目以降(赤字0.4万円)

年収節税額
600万円約800円
1,500万円約1,700円

2年目以降の節税額は、年間で1,000円前後です。


6. 2年目以降の節税額を、実際の支出と並べてみる

2年目以降の節税額が年1,000円前後だとして、それがどの程度の水準なのかを掴むために、実際の支出と並べます。

項目年間の金額
固定資産税・都市計画税6.0万円
管理費・修繕積立金14.4万円
管理委託料5.7万円
支出合計26.1万円
節税額(年収800万円の場合)約0.1万円

これらの支出をすべて経費として計上したうえで、戻ってくるのが約1,000円です。

「節税になる」という言葉から想像される金額とは、桁が違います。そして固定資産税は毎年6万円かかり続けますが、節税額が増えることはありません。減価償却費は定額法であれば毎年同じ金額であり、一方でローン残高が減るにつれて支払利息は減っていくため、年を追うごとに赤字は縮小していきます。

つまり2年目以降の節税額は、時間とともにさらに小さくなるのが通常の推移です。


7. 減価償却が効く人には、別の論点がある

ここまでは、RC造の築浅ワンルームで節税額がほとんど出ないという話でした。

では、減価償却を大きく取れる物件を選び、実際に節税効果が出ている場合はどうか。ここには別の検討が必要になります。この論点は、高年収層ほど重要になります。

減価償却した分だけ、売却時の取得費が減るという点です。

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 - 減価償却累計額) - 譲渡費用

減価償却で毎年29.8万円ずつ経費計上すれば、10年で298万円。売却時の取得費はその分減り、譲渡所得が298万円増えることになります。

つまり減価償却による節税は、税金を消しているのではなく、売却時まで先送りしているだけです。

そして、ここに年収による決定的な差が生まれる

先送りが得になるかどうかは、「いま減らす税率」と「売却時に払う税率」の比較で決まります。

所有期間5年超の長期譲渡所得の税率は20.315%(所得税15%+復興特別所得税+住民税5%)で固定です。

年収保有中の限界税率売却時の譲渡税率差
600万円20%20.315%▲0.3pt
800万円30%20.315%+9.7pt
1,000万円30%20.315%+9.7pt
1,200万円33%20.315%+12.7pt
1,500万円43%20.315%+22.7pt

年収600万円台では、そもそも繰り延べる意味がありません。20%で減らした税金を、売却時に20.315%で払い直すことになるからです。仮に減価償却が大きく取れる物件を選んだとしても、差はマイナス0.3ポイントです。

一方、年収1,500万円であれば話は変わります。43%で減らした税金を20.315%で払うため、差額22.7ポイントがそのまま利益になります。年間100万円の減価償却費を計上できれば、保有中に43万円減らし、売却時に20万円払う。差し引き23万円が残る計算です。

つまり、

減価償却による節税は、繰り延べであるがゆえに、限界税率が高い人ほど有利になる。

課税所得が695万円を超えて所得税率23%以上になるあたり、給与収入でいえばおおむね年収1,200万円前後が分岐点です。ここを超える層にとっては、減価償却は税率差を取りにいく手段として機能します。

そして逆に言えば、この構造が成立しない年収帯に対して節税を訴求することには、無理があります。

8. なぜ営業は「節税」を前面に出すのか

ここまでの計算を眺めると、ひとつの構造が浮かび上がります。

節税訴求は、高年収層を選別するフィルターとして機能する

節税効果が意味を持つのは、限界税率が譲渡税率20.315%を明確に上回る層、つまり年収1,200万円前後からでした。年収600万円台では効果が実質ゼロになります。

この線は、そのまま顧客層の線引きと一致します。

「節税になります」という言葉に反応するのは、高い税金を払っている自覚がある人です。つまり高年収層です。逆に、年収600万円台の人がこの言葉に惹かれて問い合わせても、計算上は効果がありません。

節税という切り口は、意図の有無にかかわらず、高年収層だけを引き寄せる構造を持っています。そして高年収層は融資の審査も通りやすい。集客と与信の両面で効率がいい訴求なのです。

1戸では金額にならないため、複数戸が前提になる

もうひとつの構造です。

計算の通り、1戸あたりの節税額は初年度でも年収1,500万円の人で約10万円、2年目以降は数千円まで落ちます。これを「節税対策」として成立させようとすれば、戸数を増やすしかありません。

5戸持てば初年度の節税額は50万円規模になります。訴求としての見栄えは、ここでようやく整います。

つまり節税を入口にした提案は、構造的に複数戸の購入へ向かいやすい。1戸では効果が小さすぎて、話が続かないからです。

問題は「嘘をついている」ことではない

誤解を避けるために書いておくと、節税の仕組み自体は事実です。損益通算は制度として存在し、税金は実際に減ります。

問題は別のところにあります。節税を判断基準の中心に置くと、物件を選ぶ軸がずれるという点です。


9. 節税を軸にすると、物件選定が狂う

節税額は「赤字額 × 限界税率」で決まります。つまり赤字が大きいほど節税額は増えます。

この式をそのまま物件選定に持ち込むと、何が起きるか。

節税を軸にした場合収益を軸にした場合
赤字が大きい物件が「良い物件」になる収支が黒字の物件が良い物件
減価償却の大きさで選ぶ家賃の成長性で選ぶ
自分の税率が判断材料物件の立地と需給が判断材料

赤字が大きい物件とは、収支が悪い物件です。節税を最大化しようとすれば、論理的に収益性の低い物件へ向かいます。

そして節税で戻ってくるのは赤字の3割程度。残る7割は本当に失われています。年間20万円の赤字を出して6万円戻ってくることを「得」と呼ぶなら、それは計算が合っていません。

本来見るべきは、家賃を上げられる物件かどうかです。同一マンション内の成約賃料の推移、成約までの日数、募集賃料と成約賃料の乖離、入退去の回転。これらは節税額とは何の関係もありませんが、10年後の資産価値を決めるのはこちらです。


10. それでも不動産投資が有効である理由

ここまで節税について厳しく書きましたが、不動産投資そのものを否定しているわけではありません。

インフレ期において、借入をして実物資産を保有する構造には明確な合理性があります。家賃は物価に連動して上昇しうる一方、ローン残高は名目で固定されている。東京23区のシングルタイプの成約賃料は2026年Q1に前年同期比8.1%上昇しており、借入金利2%前後との差は開いたままです。

そして返済原資は自分の給与ではなく入居者の家賃です。保有しているだけで元本が減り続ける仕組みは、他の金融商品にはありません。

節税は、この構造の上に乗る副次的な効果です。

節税が意味を持つ条件

念のため整理すると、節税効果が実質的に働くのは以下の条件が揃った場合です。

年収1,200万円以上で限界税率が33%を超えていること。減価償却を大きく取れる構造の物件であること。長期保有を前提とし、譲渡課税の場面を作らないこと。そして相続対策として評価額の圧縮を狙う場合は、所得税とは別の効果が期待できます。

これらに該当する方にとって、節税は検討材料のひとつになります。ただしその場合でも、物件そのものの収益性が先であることは変わりません。


11. 確認すべきこと

節税の説明を受けたときに確認すべき項目です。

まず、提示された節税額が初年度のものか2年目以降のものか。初年度は諸費用の計上で赤字が大きくなるため、金額が跳ね上がります。2年目以降の数字を必ず出してもらってください。

次に、土地取得に係る負債利子の損益通算制限が織り込まれているか。この規定を反映していない試算は、節税額を過大に示しています。

そして、減価償却分が売却時の譲渡所得に加算されることが説明されているか。繰り延べであって免除ではない、という点です。

最後に、節税の話を抜きにして、その物件の収支と将来の家賃見通しを説明できるか。ここに答えられない提案は、節税以外に訴求できる材料がないということになります。

12. まとめ

不動産投資の節税の本質は減価償却にあります。現金の支出を伴わない経費で税金が減るという点に価値があり、それが成立するのは諸費用の支払いが終わった2年目以降です。初年度の赤字は実際に諸費用を支払った結果であり、節税というより支出に対する部分的な還付にすぎません。

ところがRC造の築浅ワンルームは、その2年目以降が最も出にくい構造をしています。法定耐用年数47年では減価償却費が年約30万円にとどまり、家賃収入114万円に対して赤字を作れないためです。2年目以降の節税額は年1,000円前後で、しかも年を追うごとに縮小していきます。

減価償却を大きく取れる物件を選んだ場合でも、それは税の繰り延べであり、売却時に譲渡所得として戻ってきます。限界税率が譲渡税率20.315%を上回らなければ意味がなく、年収600万円台では効果が実質ゼロです。逆に年収1,500万円であれば22.7ポイントの税率差がそのまま利益になります。

この構造ゆえに、節税訴求は高年収層を選別するフィルターとして働き、1戸では金額にならないため複数戸の購入へ向かいやすいという性質を持っています。

そして節税を軸に物件を選ぶと、赤字が大きい物件、つまり収支の悪い物件が「良い物件」に見えてしまいます。

不動産投資はインフレ期において有効な選択肢です。ただし有効なのは、家賃が伸びる物件を選べた場合に限られます。節税は結果として付いてくるものであって、選ぶ基準にするものではありません。

「節税になります」と言われたら、こう返すのが最も実用的です。

「節税の話は一旦おいて、この物件の家賃は上がりますか」

【出典】

  • 国税庁「令和5年分 申告所得税標本調査結果」
  • 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」
  • 国税庁 タックスアンサー(譲渡所得・損益通算・減価償却関連)
  • 租税特別措置法第41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)

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