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インフレ期の資産形成|オルカンと不動産投資は「どちらか」ではない

新NISAが始まって以降、資産形成の入口はほぼ定型化しました。証券口座を開き、eMAXIS Slim全世界株式(オルカン)を毎月積み立てる。信託報酬は年率0.05775%以内と業界最低水準で、運用益は非課税。合理的な選択であることに議論の余地はありません。

では、そこまでやっている人が不動産投資を検討する理由は残るのか。

結論から言えば、残ります。ただしそれは「オルカンより儲かるから」ではありません。両者は運用している対象そのものが違うからです。本記事ではその違いを構造から整理します。

本記事はKASUUNO編集部が執筆しています。

目次

1. インフレ期は「負けない」では足りない

2026年のインフレ率は2%前後。賃上げ率は5%台が3年続いています。物価も賃金も上がり続けているのが今の日本です。

この環境で、普通預金に置いた資金はどうなるか。

10年後の実質価値(インフレ率2%の場合)
現金・普通預金約82%(18%の目減り)
20年後約67%(33%の目減り)

何もしないことが、確実に損をする選択になる。これがデフレ期との決定的な違いです。

そして「インフレに負けない」水準、つまり年2%程度の運用では、実質的には現状維持にすぎません。資産を増やすにはインフレ率を明確に上回る運用が必要になります。

2. 資産クラス別のインフレ耐性

主要な選択肢を並べます。

資産インフレ耐性特徴
現金・預金×実質価値が確実に目減りする
個人向け国債(変動10年)△金利上昇には追随するが、インフレ率を上回る保証はない
株式(オルカン等)○企業が価格転嫁できれば利益も株価も上昇。ただし短期の変動は大きい
不動産○実物資産。家賃が物価に連動しうる

株式と不動産が候補に残ります。ここから先が本題です。

3. オルカンの強み

まずオルカンの強みを整理します。

① 分散
全世界の先進国・新興国あわせて数千銘柄に投資します。特定の国や企業が破綻しても、資産全体への影響は限定的です。不動産投資は1戸買えば1物件への集中投資になります。

② コストの低さ
信託報酬は年率0.05775%以内。1,000万円運用しても年間5,775円です。不動産の管理委託料や修繕積立金とは桁が違います。

③ 非課税
新NISAでは年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)、生涯1,800万円まで非課税です。通常なら運用益に約20.315%の税金がかかるところがゼロになります。不動産の家賃収入は課税対象です。

④ 換金の手軽さ
数回の操作で売却注文を出せます。不動産は仲介会社や買取業者とのやり取りが必要になります。

⑤ 手間がゼロ
設定すれば自動で積み立てられます。不動産には入退去、修繕、確定申告といった実務が伴います。

3-2. オルカンの弱点

次にオルカンの弱点を整理します。

最も大きいのは、手元資金の範囲でしか買えないことです。毎月の積立額は自分の可処分所得が上限になります。年収がいくら高くても、生活費を引いた残りしか投資に回せません。資産が増えるスピードは、自分がいくら入金できるかで決まります。

次に、価格変動の大きさです。長期で持てば報われるというのが定石ですが、その過程では3〜4割の下落を経験することがあります。積立を続けている最中に資産が半分近くまで減り、そこで耐えられずに売却してしまえば、長期投資の前提そのものが崩れます。これは商品の欠陥ではなく、株式という資産の性質です。

為替の影響も受けます。オルカンは円建てで購入しますが、中身は外貨建て資産です。近年の円安は基準価額を押し上げる方向に働いてきましたが、円高に振れれば逆に働きます。「全世界株式」という名称から国際分散のイメージを持ちやすいものの、実際には米国の比率が6割程度を占めている点も、認識しておく必要があります。

保有中に現金が入ってこないという特徴もあります。値上がりは含み益として積み上がりますが、売却するまで現金にはなりません。不動産の家賃のように、保有しているだけで毎月の収入が発生する構造ではありません。

そして出口の設計が難しい。取り崩しを始めるタイミングが下落局面に当たると、資産の目減りが加速します。いつ、いくらずつ売るかを自分で判断し続ける必要があり、これは積立の判断より難易度が高い作業です。

最後に、非課税枠には上限があります。生涯1,800万円を使い切った後の運用益には、通常通り約20.315%の税金がかかります。

このうち価格変動と出口設計は、積立の継続と取り崩し計画によってある程度コントロールできます。一方、手元資金の範囲でしか買えないことと、保有中に収入が発生しないことは、この商品の構造そのものです。ここは工夫では変えられません。

4. 不動産投資にしかない3つの構造

① 手元資金を超えた規模を持てる

最も大きな違いです。

投資信託は手元にある資金の範囲でしか買えません。200万円あれば200万円分です。信用取引という手段はありますが、長期の資産形成に使うものではありません。

一方、不動産は自己資金200万円で2,800万円の資産を保有できます。14倍のレバレッジです。しかも金融機関は、投資信託の購入資金は貸してくれませんが、不動産の購入資金は貸します。

理由は担保です。不動産には物件そのものという担保価値があり、家賃という返済原資があります。この違いが、資金調達の可否を分けています。

② 返済原資が自分の給与ではない

次に重要なのがこれです。

仮に借入をして投資信託を買えたとしても、返済は自分の給与から行うことになります。不動産投資の返済原資は入居者が払う家賃です。

借入2,600万円・35年・金利2.0%の場合、10年間でローン元本は約568万円減ります。この568万円は、原則として入居者の家賃によって返済されたものです。

自分の資産が、他人の支払いによって形成されていく。この構造は他の金融商品にはありません。

③ 収入が「資産固有のインフレ率」で決まる

3つ目は、インフレ期に特有の論点です。

借入金利は経済全体の平均的な物価を見て決まります。日銀はCPIを基準に政策金利を決め、金融機関はそれに連動して貸出金利を設定します。現在の政策金利は1.25%、投資用ローンの金利は2%前後です。

一方、家賃収入はその物件が属する市場のインフレ率で決まります。東京23区のシングルタイプ(18〜30㎡)の成約賃料は、2026年Q1に前年同期比8.1%上昇しました。

金利コストとインフレ率年率
借入金利約2.0%
東京23区シングルの成約賃料上昇8.1%
差+6.1ポイント

支出は経済全体の平均インフレで決まり、収入は資産固有のインフレで決まる。この非対称性が続く限り、差額は借り手の取り分になります。

オルカンにこの構造はありません。株価が上がっても、それは自分の資金が増えるだけで、誰かの支払いが自分の債務を減らしてくれるわけではありません。

5. 同じ200万円で何が起きるか

自己資金200万円を前提とした10年後の比較です。

ケースA:オルカンに投資

200万円を一括投資し、年率5%で運用した場合。

200万円 × 1.05^10 = 約326万円

含み益は約126万円。NISA枠内なら非課税です。

※直近10年のオルカンの実績リターンはこれを大きく上回っていますが、過去の実績が将来を保証するものではないため、本記事では保守的に年5%で試算しています。

ケースB:不動産投資

自己資金200万円(頭金・諸費用)、物件価格2,800万円、借入2,600万円、35年・金利2.0%。キャッシュフローはゼロと仮定します。

項目金額
10年後のローン残債約2,032万円
10年間で減った元本約568万円

10年後の純資産は、物件価格の変動によって変わります。

10年後の物件価格純資産(価格-残債)
+10%(3,080万円)約1,048万円
横ばい(2,800万円)約768万円
▲20%(2,240万円)約208万円

※売却費用・譲渡税は考慮していません。

比較

資産別シミュレーション10年後
オルカン(年5%)約326万円
不動産(価格横ばい)約768万円
不動産(価格▲20%)約208万円

価格が横ばいでも不動産が上回る一方、2割下落すれば元本割れに近づきます。

ただ、都市部などの人口流入の続くエリアでは10年で物件価格が下がることは考えにくい。むしろインフレによる賃料上昇が続き値上がる可能性の方が高い。保守的に見ても横ばいが適切と言えます。

6. 不動産投資の弱点の大半は、事前の調査と物件選定で克服できる

不動産は、結局のところ物件を選ぶ目を持っていればリスクはほぼありません。考えられるリスクとそれが回避できる理由についてまとめます。

物件価格下落

一番のリスクは不動産価格が下がること、だと考える方が多いでしょう。

しかし、物件価格が下がるということは賃料が下がるということを意味しますが、直近の賃料上昇率は8%以上。金利が上がっているとはいえ、それ以上に賃料が上昇しています。加えてワンルーム規制や開発用地の不足から、ワンルームの価格は右肩上がりです。そのため物件価格下落は無用な心配と言えます。

加えて、仮に物件価格が下がったとしても、基本的には残債が減少するスピードの方が早いため、損益分岐点はやってきます。借入金の返済原資もほとんどが借り手の賃料ですから、オーナーの負担が最小限に抑えられます。

金利上昇リスク

金利が上がっても、家賃を引き上げられる物件であれば吸収できます。したがって確認すべきは金利の先行きではなく、その物件に家賃を上げる力があるかどうかです。同一マンション内の直近3年の成約賃料が上がっているか、募集開始から成約までの日数はどれくらいか、募集賃料と成約賃料に乖離はないか、そして入退去の回転はどの程度か。これらを管理会社に求めれば出てきます。あわせて金利2.5%・3.0%で試算しても収支が成立するかを確認しておけば、想定される金利上昇には耐えられます。

物件ごとに賃料の上昇率は異なるため、最終的には物件をしっかりと選ぶことが重要になります。

手間とコスト

区分ワンルーム1戸であれば、実務の大半は管理会社に委託できます。オーナーが自分で行うのは年1回の確定申告と、修繕や募集条件についての判断が中心です。

ワンルームの場合は複数戸保有したとしてもオーナーの負担は大したことはありません。

流動性について

「不動産は売却に数か月かかる」という説明をよく見かけますが、これは売買仲介の平均的な期間であって、すべての物件に当てはまるわけではありません。

都心のワンルームで価格設定が適正であれば、仲介でも数週間で決まります。買取業者に売却するのであれば、即日から数日での現金化も可能です。仲介より価格は下がりますが、換金スピードという意味ではNISAの解約と大きく変わりません。

そして重要なのは、賃料が伸びて残債が減っていれば、その時点で利益を確定できるという点です。家賃収入によって毎月元本が減り続けている以上、時間の経過とともに売却時の手残りは増えていきます。焦って手放す必要がある状況自体が、そもそも起こりにくい構造になっています。

7. 本質的な違いは「何を運用しているか」

ここまでの整理を一言でまとめると、こうなります。

NISAは「手元資金」を運用する制度。不動産投資は「信用力」を運用する手段。

会社員が持っている資産は、預金だけではありません。金融機関から借りられる能力、すなわち与信枠も一種の資産です。

そしてこの与信枠には特徴があります。

  • 使わなければ、何も生まない
  • 年齢とともに減っていく(完済時年齢の上限があるため、借入可能期間が短くなる)
  • 勤続年数や年収が安定しているときに最大化される

つまり与信枠は、持っているだけでは価値を生まず、しかも時間とともに目減りしていく資産です。インフレ期の現金と、構造が似ています。

オルカンは手元資金がなければ始められません。逆に言えば、与信枠がどれだけあっても、それをオルカンに変換する方法はないのです。

8. 不動産投資は、始めるのが早いほど有利になる

ここまでの構造を踏まえると、ひとつの結論が出ます。

不動産投資は、条件が揃っているなら先送りする合理性がありません。理由は4つあります。

与信枠は年齢とともに消えていく

不動産投資ローンには完済時年齢の上限があります。多くの金融機関で85歳未満とされており、35年ローンを組めるのは50歳前後までです。

つまり40歳で組めるものが、45歳では組めません。借入期間が短くなれば月々の返済額は上がり、同じ家賃では収支が回らなくなります。与信枠は保有しているだけでは何も生まず、しかも確実に目減りしていく。この点で、インフレ下の現金と同じ性質を持っています。

そして与信枠が最大化されるのは、勤続年数と年収が安定している時期です。使える時期が来たら使う以外に、この資産を活かす方法はありません。

家賃が元本を減らす効果は、保有期間に比例する

先の試算では、借入2,600万円に対して10年間でローン元本が約568万円減りました。これは入居者の家賃によって返済された金額です。

始めるのが5年遅れれば、その5年分の元本返済は永久に取り戻せません。後から取り返す手段は存在せず、単純に失われます。

インフレは待ってくれない

現金の実質価値は年2%程度のペースで削られ続けています。10年で約18%、20年で約33%の目減りです。

検討している期間も、この損失は進行しています。「もう少し考えてから」という判断そのものにコストが発生しているのが、インフレ期の特徴です。

収入側はすでに動いている

東京23区のシングルタイプ(18〜30㎡)の成約賃料は、2026年Q1に前年同期比8.1%上昇しました。これは予測ではなく、すでに起きている変化です。

家賃が上がっている局面では、保有している人だけがその恩恵を受けます。検討している人は受け取れません。

価格の先行きは分からない。しかし時間の効果は確実

念のため申し添えると、本記事は「今後も不動産価格が上がる」という予測を根拠にしていません。価格の先行きは誰にも分かりません。

しかし与信枠の目減り、元本返済の積み上がり、現金の実質価値の低下は、予測ではなく確実に起きることです。価格がどうなるかに関係なく、早く始めた人のほうが有利になる構造があります。必要はありません。運用している資産が違うため、手元資金はNISAへ、与信枠は不動産へと、同時に働かせることができます。

9. まとめ

インフレ期には、何もしないことが確実な損失になります。オルカンは分散・低コスト・非課税の面で優れた選択肢ですが、手元資金の範囲でしか買えず、保有中に現金収入も生まれません。これは商品の構造であり、工夫では変えられません。

不動産投資はその2点を補います。手元資金を超えた規模を持て、返済原資は入居者の家賃です。価格下落リスクは自己資金を厚くすることで、金利上昇は家賃を上げられる物件を選ぶことで抑えられます。都心ワンルームなら換金も仲介で数週間、買取なら数日で可能です。

本質的な違いは、NISAが「手元資金」を運用するのに対し、不動産投資は「信用力」を運用するという点にあります。そして信用力は、使わなければ何も生まないまま年齢とともに消えていきます。

だからこそ両者は競合せず、並行して進められます。そして不動産は始めるのが早いほど有利です。与信枠の目減り、元本返済の積み上がり、現金の実質価値の低下は、予測ではなく確実に起きることだからです。

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【出典】

  • 総務省統計局「消費者物価指数」(2026年8月分)
  • 日本労働組合総連合会「2026春季生活闘争 回答集計結果」
  • 金融庁「NISA特設ウェブサイト」(制度概要)
  • 三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」交付目論見書
  • アットホーム㈱/㈱三井住友トラスト基礎研究所「マンション賃料インデックス」
  • 日本銀行 金融政策決定会合関連資料

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